インボイスが始まると、消費税の免税事業者は取引できなくなるの?
残念ですが、業界によっては免税事業者は取引から排除されるでしょう
消費税の免税事業者は、インボイスの事業者登録ができません。
事業者登録をしていない業者と取引をすると、税金で不利益になることがあるので、免税事業者は取引できなくなると言われています。
本記事では、免税事業者が受けるインボイスの影響と、その対策方法について徹底解説します。
- なぜ、消費税の免税事業者は取引から排除されてしまうのか?
- 排除されにくい業界とは、どのような業界か?
- 取引から排除されないためには、どうすればいいか?
名前:スフィンクス(税理士)
税理士業界で、10年間経験を積んだのち独立。
小規模事業者の経営支援や、法人化コンサルを中心に活動中。
なぜインボイスで免税フリーランス・個人事業主が排除されるか?
インボイスで、免税事業者が排除されてしまう理由は3つあります。
- 免税事業者と取引をすると、税金が増える
- 値下げ交渉をするのもリスクがある
- 今まで築いてきた信用が、崩れる可能性がある
免税事業者と取引をすると、税金が増える
インボイスが始まると、免税事業者と取引をすれば、税金上不利になります。
理由は、「免税事業者が消費税免除で得をした税金」を、代わりに取引業者が払うことになるから。
具体例で詳しく解説します
<具体例>
Aさん:消費税の免税事業者
Bさん:消費税の課税事業者
AさんはBさんに商品を110円(うち、消費税10円)で販売
Aさんは、免税事業者なので消費税10円分を国に払う必要はありません。
なので、国としては10円分損をしています。(Aさんは10円得している。)
この10円分の損を解消するために、インボイス制度が作られました。
インボイスが始まると、この10円分の消費税はBさんが負担しなければなりません。
Bさんからしてみると、完全なとばっちり。
「Aさん取引をすると税金が増えるから、別のところから買う」と言われるかもしれません。
<インボイスの経過措置>
インボイスが始まるとBさんの税金負担が増えますが、いきなり10円分増やすと世間の反発が大きいため、段階的に負担額を増やす経過措置が設けられています。
値下げ交渉をするのもリスクがある
2つめの理由は、値下げ交渉にリスクがあること。
もう一度、先ほどの具体例で確認しましょう。
<具体例>
Aさん:消費税の免税事業者
Bさん:消費税の課税事業者
AさんはBさんに商品を110円(うち、消費税10円)で販売
→Bさんは、Aさんが本来払うはずの消費税10円を負担することになる
私がBさんなら、Aさんに10円の値下げ交渉をするわ
実は、値下げ交渉が独占禁止法に引っかかる可能性があります
- 独占禁止法とは?
-
公正で自由な市場を守るために、不公正な取引を排除するための法律。違反すると罰金刑がある。
独占禁止法では、立場の強い事業者が、弱い事業者(下請け業者)に値下げを強要することを禁止しています。
もし、Bさんが強い立場を持っていたとして、その強い立場でAさんに値下げを強要してしまうと、罰金刑になるかもしれません。
「値下げ交渉の余地もないなら、免税事業者と取引をしたくない」と思われてしまう可能性は十分にあります。
今まで築いてきた信用が、崩れる可能性がある
消費税の免税事業者の方は、お客さんに消費税込みの金額を請求しているにもかかわらず、消費税を国に払っていません。
このこと自体は、法律上なんの問題もありません。
現状では、ほぼ全ての免税事業者が消費税を請求しています
しかし、インボイスが始まると、自分が免税事業者であることが、お客さんにばれてしまいます。
つまり、インボイスが始まる2023年10月1日は、お客さんに
今まで消費税を請求していたけど、実は国に払っていなくて自分の財布に入れていました
と、告白する日になる。ということです。
法律上、免税事業者が消費税をお客さんに請求しても、何の問題もありません。
しかし、お客さんの心情からしてみると、どうでしょうか?
「免税事業者なのに、消費税を請求しているなんておかしい」と思う方がいても、不思議ではありません。
場合によっては、今まで築いてきた信用が崩れてしまう可能性もあります。
影響がない(免税事業者でも排除されない)業界
一般消費者を対象としている業界
小売業や飲食業などの、一般消費者を対象としている業界は、免税事業者でも影響がありません。
その理由は、一般消費者は、そもそも消費税の納税義務がないから。
そのため、免税事業者が消費税分の請求をしたとしても、インボイスで消費税の負担が増えることはないのです。
供給が不足している業界
需要がとても多く供給が不足している業界は、免税事業者でも影響がないと考えられます。
理由は、供給が不足している業界では、業者を選ぶ余裕がないからです。
このような業界では、免税事業者が請求した消費税を、取引業者が負担することになると予想されます。
フリーランスや個人事業主が取引から排除されないためには
インボイスが始まる2023年10月の時点で、「インボイスの登録事業者」になっていることが重要です。
消費税の免税事業者は、「インボイスの登録事業者」になれません。
そのため免税事業者であっても、あえて課税事業者となり、「インボイスの登録事業者」になる必要があります。
課税事業者になれば、今まで得してきた消費税はなくなってしまいますが、取引から排除されないためには仕方がありません。
少しでも免税事業者の期間を長くするため、
- 2023年9月までは免税事業者
- 2023年10月以降は課税事業者
と、なるように税務署に届出を提出することをおすすめします。
届出の方法が複雑なため、不安な方は税理士に頼みましょう
結論:消費税免税のフリーランス・個人事業主はインボイスの準備を
インボイスが始まると、一部の業界を除き、免税事業者は取引から排除されてしまうでしょう。
排除されないためには、免税事業者をやめ、課税事業者になるしかありません。
現時点で免税事業者の方は、2023年10月から始まるインボイスに向け、しっかりと準備をしていきましょう。