長期的に節税して、老後資金を貯めるにはどうすればいいの?
役員退職金は、長期的な節税を考えたときに、最も効果がある節税方法です。
ただし、制度が少し複雑なうえ、いくつか注意点もあります。
そこで本記事では、役員退職金を使った節税方法と役員退職金の注意点を、分かりやすく解説します。
- 役員退職金の節税メリットが分かる
- 役員退職金の注意点が分かる
- 具体的にどのような準備をしていけばいいか分かる
名前:スフィンクス(税理士)
税理士業界で、10年間経験を積んだのち独立。
小規模事業者の経営支援や、法人化コンサルを中心に活動中。
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役員退職金による節税メリットを理解しよう
退職金は、老後の生活保障の意味合いがあるため、給料や賞与よりも優遇されています。
かかってくる税金等は、給与や賞与よりも圧倒的に安いです。
具体的には、下記の4点が優遇されています。
- 退職所得控除が使える
- 所得を半分にできる
- 他の所得と分けて、単独で税率が決まる(分離課税)
- 社会保険料がかからない
詳しくみていきましょう
退職所得控除
- 退職所得控除とは?
-
退職金だけに使える控除のこと。勤続年数が増えるほど控除が増えていく
「退職所得控除」は、何年勤務したかによって金額が変わります。
控除額の計算方法は、下記の通りです。
勤続年数 | 退職所得控除 |
---|---|
20年以下 | 40万円 × 勤続年数 |
20年超 | 800万円 + 70万円×(勤続年数-20年) |
<具体例1>
勤続年数 15年
退職所得控除⇒ 40万円 × 15年 =600万円
<具体例2>
勤続年数 25年
退職所得控除⇒ 800万円 + 70万円×(25年-20年)=1,150万円
勤続年数が長くなるほど、控除が増えるのね
退職所得控除を使ったうえで、さらに所得を半分にできる
退職所得控除を使ってもまだ所得がある場合は、さらに所得を半分にできます。
<具体例>
勤続年数 :15年
退職金 :800万円
退職所得控除⇒ 40万円 × 15年 =600万円
退職所得 ⇒(800万円 - 600万円)×1/2=100万円
給与所得や事業所得とは別に税率が適用される(分離課税)
給与所得や事業所得は、所得を全て合計して税率が決まります。
所得税率は、所得が多くなるほど税率が高くなる累進税率が適用されるため、給与所得や事業所得は税率が高くなりがちです。
それに対して退職所得は、退職所得だけで税率が決まるので、比較的低い税率が適用されることが多いです。
社会保険料がかからない
退職金には、社会保険料がかかりません。
そのため、給与や賞与と比べて手取り額は大幅に増えます。
<給与や賞与の社会保険料>
従業員負担分と会社負担分を合計すると、額面の約25~30%にもなります。
退職金はこんなに手取りが多くなる
上記の通り、退職金には様々な優遇措置があるため、給料に比べて手取りが額が多くなります。
勤続年数が20年の場合に、どれくらい手取り額が多くなるか
- 1000万円を給料としてもらった場合
- 1000万円を退職金としてもらった場合
とを、比較してみました。
項目 | 給料 | 退職金 |
---|---|---|
額面 | 1,000万円 | 1,000万円 |
社会保険料 (会社負担分込み) | 255万円 | 0 |
所得税 | 65万円 | 5万円 |
住民税 | 55万円 | 10万円 |
手取り額 | 625万円 | 985万円 |
項目 | 給料 | 退職金 |
---|---|---|
額面 | 1,000万円 | 1,000万円 |
社会保険料 (会社負担分込み) | 255万円 | 0 |
所得税 | 65万円 | 5万円 |
住民税 | 55万円 | 10万円 |
手取り額 | 625万円 | 985万円 |
退職金の方が360万円も手取りが多くなるのね!
役員退職金の注意点を知ろう
退職金は税金がかなり優遇されているので、その分税務署のチェックも厳しくなります。
ルールを守らないと、退職金扱いにならず、多額の税金が取られてしまいますので注意しましょう。
実質的に退職していないといけない
「退職金」として認められるには、形式的に役員を退くだけでなく、実質的に退職している必要があります。
- 実質的に退職とは?
-
経営から完全に離れ、会社の重要な意思決定(人事や資金調達など)に関与していない状態
実質的に退職していなければ「退職金」が認められない可能性があります。
「退職金」を支給する際は、役員を退任しているだけでなく、「実質的にも退職しているか」もチェックしましょう。
後継者がいないときは、どうやって退職すればいいの?
後継者がいないなら、会社が存在する限り役員を退任できません。
なので、会社を解散して退職金を受け取ることになります。
5年以上役員として勤務する
「退職金」のメリットのひとつ「所得を半分にできる」については、5年以上勤務した場合のみ適用されます。
節税メリットを最大限に活かしたいなら、5年以上勤務してから退職金を受け取るようにしましょう。
法人の経費にできる金額には限度がある
法人側の立場からすると、退職金の支給により多額の経費計上が可能です。
しかし、法人の経費にできる金額には適正額があり、適正額を超えてしまった金額は経費計上できないのです。
適正額=最終報酬月額 × 勤続年数 × 功績倍率※
※功績倍率は役職によって異なりますが、代表取締役の場合は3.0が使われることが多いです。
<具体例>
最終報酬月額:30万円
勤続年数 :20年
功績倍率 :3.0
適正額 ⇒ 30万円×20×3.0 =1,800万円
法人に多額の経費を計上できると、今期の税金が減るだけでなく、場合によっては前期の税金も取り戻せます。
「役員退職金」を支給する際は、「役員退職金の適正額」にも注意しておきましょう。
役員退職金の原資を用意しよう
退職金で節税したくても、会社に退職金の原資(お金)がなければ、退職金を払えません。
ここからは退職金で節税するための、原資の準備方法を紹介します
方法1 会社に少しずつ利益を貯めていく
退職までの期間、会社に少しずつ利益をためていく、オーソドックスな方法です。
利益を出せば、自然に会社のお金が増えていきます。
利益を出して増えたお金を原資として、役員退職金を支払います。
この方法のメリット
増えたお金を、臨機応変に使えることです。
投資に回してもいいですし、場合によっては新規事業のために使ってもいいです。
この方法のデメリット
利益を出すたびに、法人税等がかかることです。
- 年間800万円までの利益なら約23%
- 年間800万円を超える利益は約35%
の法人税がかかります。
方法2 役員退職金保険に加入する
退職までの期間、役員退職金を準備するための生命保険金に加入します。
毎年保険料を払っていき、退職時に保険を解約します。
そして、受け取った解約返戻金を原資に、役員退職金を支払います。
この方法のメリット
毎年払った保険料が経費になるため、法人税等を回避しながら退職金の原資を準備できます。
また、万が一自分が死亡してしまったときに、会社に対して死亡保険金が支払われます。
死亡保険金は、死亡退職金という形でご家族に支給すれば、少ない税金でご家族の生活保障ができます。
この方法のデメリット
保険金は多くの場合、元本割れします。(保険料の支払総額より、解約返戻金の方が少なくなる)
また、いったん保険会社に払ってしまった保険料は、解約まで自由に使えないこともデメリットです。
結論:役員退職金を活用して節税しよう
役員退職金は、長期的な節税を考えるうえで最も効果がある方法です。
圧倒的に税金が安いだけでなく、社会保険料もかかりません。
給料で貰うと機と比較すると、手取り額はかなり多くなります。
役員退職金を支払う際は、5年以上勤務し、適正額の範囲で支払いましょう。
また、退職金の原資をどのように用意するかも考えておきましょう。
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